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名古屋地方裁判所 昭和24年(ワ)838号 判決

原告 株式会社大道無尽

被告 山田静雄 外八名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は原告に対し、被告山田静雄、同堀田徳一は連帶して金三十二万六千三百五十三円、被告浅野花栄は金十万八千七百八十四円、被告浅野すず子、同浅野一男、同浅野みさ子、同浅野光利、同浅野清子、同小島貞子は各金三万六千二百六十一円及び之等に対する本訴状送達の翌日以降右各支払済に至る迄年五分の割合に依る金員を支払うべし、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、訴外加納義雄は原告会社の社員として昭和二十二年十月四日入社し被告堀田徳一及び浅野喜市(被告同浅野花栄の夫で且被告浅野すず子、同浅野一男、同浅野みさ子、同浅野光利、同浅野清子、同小島貞子の父)は同日、被告山田静雄は昭和二十三年三月一日夫々右加納の為原告に対し連帶して身元保証を為した。しかして右加納は庶務課勤務中昭和二十四年六月十一日頃から同年十月五日頃迄の間に原告会社の所得税、保険料、税金、家賃金、水道、電話料金等合計三十二万六千三百五十四円六十七銭を費消横領した。尚浅野喜市は昭和二十五年六月十五日死亡したので同人の遺産をその妻被告浅野花栄は三分の一、残り三分の二をその子被告浅野すず子、同浅野一男、同浅野みさ子、同浅野光利、同浅野清子、同小島貞子六人にて平等に相続したものである。よつて被告等は右身元保証契約に基き右加納の費消横領に因り原告の蒙つた右費消額の損害を賠償すべき義務があるから、原告は之が支払を求める為本訴請求に及ぶと陳述し、被告等の答弁に対し右身元保証契約は宝無尽株式会社と被告山田、同堀田及び浅野喜市との間に締結せられ、被告等主張の如く右会社は昭和二十三年七月二十日その営業全部を原告会社に譲渡して解散したものであることは認めるが、右は金融機関再建整備法に基いたもので形式上は営業譲渡であるが実質上は右会社と原告会社との合併である。従つて被告等は原告会社に対し依然右身元保証責任があるものである。又右加納は入社当時は会計課勤務でその後庶務課勤務となつたもので、之に付ては被告等に通知をしなかつたがこの変更は単に職場変更であるばかりでなく却つて身元保証人の責任が軽くなつたものであるから、原告会社は被告等に対し右職場変更を通知する義務が生じなかつたものである。尚又原告会社は所謂無尽会社であるからその性質上大なり小なり金銭的取扱を為すものであることは当然であると述べた。<立証省略>

被告山田静雄、同堀田徳一各訴訟代理人及び爾余の被告等は夫々原告の請求を棄却するとの判決を求め、

被告山田訴訟代理人は答弁として、訴外加納義雄が原告会社に入社したことは不知、被告山田が右加納の為身元保証を為したことは否認、右加納が原告会社の金を費消横領したことは不知、仮に右加納の為身元保証を為したとするも原告会社に対し為したものでなく訴外宝無尽株式会社に対し為したもので同訴外会社は昭和二十三年七月二十日営業全部を原告会社に譲渡して解散したものであり、右営業譲渡に依り原告会社は当然に右身元保証に付て右訴外会社の地位を承継するものでない。従つて仮に右加納が原告主張の如く費消横領したとするも原告会社に勤務中の行為に付ては被告山田において何等の責を負うものではない。仮にそうでないとするも右加納は幹部社員の経験がなく又右訴外会社より会計等金銭取扱事務を担当させる即ち幹部社員として入社せしめる旨何等明示されなかつたから、被告山田は右加納が軽い責任をもつ社員として之が身元を保証したものである。従つて仮に右加納が原告主張の如き事務を担当したとすれば、被告山田の身元保証の責任が加重されたものであるから、同被告にその旨通知すべきに拘らず之を為さなかつたから之に因り同被告の身元保証責任は消滅したものである。仮にそうでないとするも原告会社は右加納に対する監督の責任を尽さなかつたものである。即ち右加納の費消金は原告会社主張の期間に税金、水道、電話料、保険料等の費消なれば当然その受領証の有無その内容等を調査すれば費消の事実が容易に判明し、かゝる多額の費消を防止できたに拘らず之を為さなかつたから監督の責任を尽さず、この点に付て原告会社に過失があつたから被告山田の賠償額に付て当然斟酌されねばならぬと抗争し、原告の再答弁に対し前示訴外会社と原告会社は実質上合併したものであるとの事実は否認すると述べた。<立証省略>

被告堀田訴訟代理人は答弁として訴外加納義雄が原告会社に入社したことは不知、被告堀田が右加納の為身元保証をしたことは否認、右加納が原告会社の金を費消横領したことは不知、尤も昭和二十二年十月右加納が訴外宝無尽株式会社に入社する際被告堀田は契約証書用紙に右加納の身元保証人となる為捺印をしたことがあつたが、その後右訴外会社が保証人の資格調査をした結果その資格なしとのことで拒否せられたことがある。仮に右身元保証をしたとするも右訴外会社に対して為したものであり、同訴外会社は昭和二十三年七月二十日営業全部を原告会社に譲渡して解散したものである。尚右営業譲渡に依り原告会社は当然に右身元保証に付て右訴外会社の地位を承継するものでない。従つて仮に右加納が原告主張の加く費消横領したとするも原告会社に勤務中の行為に付ては被告堀田において何等の責を負うものでない。仮にそうでないとするも右加納は幹部社員の経験がなく又右訴外会社より会計等金銭取扱事務を担当させる即ち幹部社員として入社せしめる旨何等明示されなかつたから被告堀田は右加納が軽い責任をもつ社員として之が身元を保証したものである。従つて仮に右加納が原告主張の如き事務を担当したとすれば被告堀田の身元保証の責任が加重されたものであるから、同被告にその旨通知すべきに拘らず之を為さなかつたから之に因り同被告の身元保証責任は消滅したものであると陳述した。<立証省略>

被告浅野花栄、同浅野すず子、同浅野一男、同浅野みさ子、同浅野光利、同浅野清子、同小島貞子等七名は答弁として訴外加納義雄が原告会社に入社したことは不知、浅野喜市が右加納の為身元保証をしたことは否認、右加納が原告会社の金を費消横領したことは不知、仮に右浅野喜市が右加納の為身元保証を為したとするも原告会社に対し為したものでなく訴外宝無尽株式会社に対し為したもので同訴外会社は昭和二十三年七月二十日営業全部を原告会社に譲渡して解散したものであり、右営業譲渡に依り原告会社は当然右身元保証に付て右訴外会社の地位を承継するものでない。従つて仮に右加納が原告主張の如く費消横領したとするも原告会社に勤務中の行為に付ては被告七名において何等の責を負うものでないと陳述した。<立証省略>

三、理  由

先ず原告の被告山田静雄に対する請求から按ずるに、証人奥田文六の証言に依れば甲第一号証の二が被告山田静雄等の誓約書として宝無尽株式会社に差入れてあることは明かであつて、被告山田静雄本人尋問の結果に依れば、同誓約書の連帶保証人山田静雄名下の印影が同人の印影なることが認められ、之等の事実と証人伊藤六蔵の証言とを合せ考えれば、同被告は昭和二十三年三月一日訴外加納義雄が右会社に入社するに付て同被告が右会社に対し身元保証を為したように一応見受けられるが、更に被告山田本人尋問の結果及び同尋問の結果に依り成立を認められる乙第一号証を綜合するに、被告山田は右加納より電気工事を依頼されて知るようになつたが、親密な間柄でなくその工事残代金四百円を未だ支払つてもらえないような状態で好感をもたなかつたが、右加納は同被告の店に度々出入し同被告に対し前示会社に入社するに付て自分の身許調査に来るから宜敷く頼むと申していて、その後同会社の係員が同被告方に来たが同被告が身元保証を為す話は全然なかつたこと、及び同被告不知の間に同被告が営業上使用する為店の机に常に置いておいた印章が何者にか擅に使用されて右契約書に押捺されたことが窺われるから、前示誓約書は原告主張の身元保証契約認定の資料と為すことができず、又右認定に反する証人伊藤六蔵の証言は措信せず他に右認定を覆して原告主張の右事実を認めるに足る確証がない。従つて爾余の点に付き判断する迄もなく原告の同被告に対する請求は失当である。

次に原告の被告堀田徳一に対する請求に付て按ずるに、成立に争ない甲第一号証の一に証人石川専左衛門の証言を綜合すれば、同被告が宝無尽株式会社に対し、昭和二十二年十月四日訴外加納義雄が同会社に入社するに付て加納の為身元保証を為す意思にて之に関する誓約書を差入れたことが認められるが、更に成立に争ない甲第一号証の二並に証人長谷川高年、同伊藤六蔵の各証言を綜合すれば、被告堀田が右のように身元保証の誓約書を右会社に差入れたが、その後同会社で同被告が右身元保証を為す資格の有無に付て資力調査をした結果、右保証人となるには資力不十分なることが判つたので、右会社においては同被告を保証人より除き、結果、身元保証契約は成立する迄には至らなかつたことが認められる。尤も証人奥田文六、同石川専左衛門の各証言中甲第一号証の一の誓約書の被告堀田徳一、同浅野喜市両名の連帶保証では保証に不十分であるから、更に甲第一号証の二の被告山田静雄を右連帶保証人に追加した趣旨の証言はあるが、右甲第一号証の一、二を対比して観るに右両誓約書は一通は昭和二十二年十月四日附、他の一通は昭和二十三年三月一日附で、両者の契約条項は全く同文であるに拘らず、各通に連帶保証人として被告浅野喜市の名義及び之が捺印があるから、身元保証人を追加したものでなくむしろ右認定のように被告堀田の資力が不十分であつたので、同被告を右保証人とせず、之に代つて被告山田静雄を保証人として加えた(尤も被告山田が保証人の責任を負わなかつたことは叙上認定の通りである)ことが窺われるから右証言は措信せず、他に前段認定を覆して原告主張の被告堀田の身元保証の事実を認めるに足る証拠がない。然らば爾余の点に付て判断する迄もなく、原告の両被告に対する請求は失当である。次に被告浅野花栄、同浅野すず子、同浅野一男、同浅野みさ子、同浅野光利、同浅野清子、同小島貞子に対する請求に付て按ずるに、証人奥田文六の証言に依り成立を認める甲第一号証の一に証人石川専左衛門の証言を綜合すれば、浅野喜市は昭和二十三年三月一日宝無尽株式会社に対し、同会社に入社した訴外加納義雄の為身元保証を為したことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠がない。しかして右会社は昭和二十三年七月二十日その営業全部を原告会社に譲渡して解散したことは当事者間に争がないところ、証人奥田文六の証言に依り成立を認める甲第四、五、六号証並に証人長谷川高年、同奥田文六の各証言を綜合すれば、右営業譲渡は右宝無尽株式会社と原告会社の前名八紘無尽株式会社は、金融機関再建整備法に基いて再建整備の為合併の必要に迫られたが、集中排除法の為、商法上の合併ができなかつたので、形式上は右整備法に依る認可を受けて営業譲渡の形式を採つたが、実体は営業譲渡に先立つて右八紘無尽株式会社の社名を現在の原告会社の名称に変更し、資本金を五百万円増資し定款を右両会社の協議で定めた内容に改め、八紘無尽株式会社の役員は一応全部辞任し、更めて右両会社より同数の役員を選任し、又営業譲渡に際つては右宝無尽株式会社の社員全部を原告会社に引継ぐ等実質上は合併と殆ど同じ方途に出たことを認めることができ右認定を覆すべき証拠がない。かかる場合、右身元引受契約が原告会社に当然引継がれるかどうかに付て考えて観るに、商法上の合併と異なつて右会社と原告会社とが人格が異つていることは明々白々だが、経営の実体が変らないから身元契約の性質上人格が異つているに拘らず、右浅野と原告会社間に、特に身元保証継続の約定がなくとも右身元保証契約は原告会社に当然引継がれるものと解するを相当とする。しかるところ証人長谷川の証言に依り成立を認める甲第二号証並に証人長谷川、同奥田の各証言に依れば、加納義雄は昭和二十四年六月頃から同年十月頃迄の間に原告会社が夫々官公庁等に納付しなければならぬ税金、保険料その他料金等合計三十二万六千三百五十四円六十七銭を擅に費消横領したことが認められるから、浅野喜市は右身元保証契約に従い原告会社に対し元来右費消額を弁償すべき責任があるわけであるが、ひるがえつて証人長谷川、同伊藤、同石川、同奥田の各証言を綜合するに、宝無尽株式会社は右加納を入社させた当時は会計課へ勤務させる予定であつたが、その人物が金銭を取扱わせるに適しないと観て庶務課勤務とし専ら記帳方面に従事させており、原告会社と右実質上の合併後も右会社本店営業所は原告会社の名古屋営業所と変更せられてそのまま同所の庶務課に勤務させていたが、庶務課の伝票に依り他課から入手する小切手等を漸次取扱わせるようになり、尚右実質上の合併により同一経営実体の拡張に止まらないで、形式上法人格が異なつたに拘らず、身元保証人である右浅野に右事情を通知せず、又庶務課長が不在等にて原告会社として右加納に対する当然用うべき監督の目が届かなかつた憾みがあつたことが窺われるから、之等の事情を考量すれば右浅野喜市の前示責任は全額に付て免れさせるを相当としなければならぬ。然らば右浅野の相続関係に付て判断する迄もなく、原告の被告浅野等及び同小島に対する請求は失当である。

以上の次第であるから原告の請求は全て之を棄却すべく、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条、第九十五条に則つて主文の通り判決する。

(裁判官 西川力一)

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